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鬼神伝

第壱話「悪夢」

 闇。
 闇だった。暗く、深く、狭く、血なまぐさく……しかし、不快なものではなく、むしろ心地よく、温かく、優しく包み込むような、そんな闇だった。そしていつも、女の優しい声が聞こえてきた。

 ある日、闇が動いた。まるでそこから追い出すかの如く、激しく、力強く、けれど、傷つけないように優しく、柔らかく。やがて、闇は途切れがちになり、代わりに白いもやのようなものが見えた。
 だが、そこでそれが自分のまぶたである事に気がついた。周りから声が聞こえた。産まれた、産まれた。なんだ、角なしか。期待はずれもいいとこだ。俺は望まれない赤子だったらしい。
 だが、それでもよかった。別に気になどならなかった。なぜなら、それらは全て男の声で、いつも語りかけてくれた、あの優しい女の……母の声ではなかったから。
 けれど、その母の声が聞こえず、どうにも不安になった俺は、どうにか母の姿を見ようと、あの優しい声で語りかけてもらおうと、開かぬはずのまぶたをこじ開けた。そして見た。
 まるで時代劇に出てくるような城の一室で、刀で串刺しにされてうなだれる母の姿を。その刀を握る父の姿を。決して忘れぬようにこの目に焼き付けた。そして……

「うあああぁぁぁぁ」

 咆哮するように産声をあげた。宣戦布告の代わりに。いつか……いつの日にか、ここに舞い戻り、お前を殺してやると誓って……

――12年後――

「うわぁ!!」

 雲ひとつ見当たらない春の晴天を仰いで、俺は授業をさぼって屋上で昼寝をしていた事を思い出した。

「はぁ……はぁ……くそ!!また、あの胸くそ悪い夢かよ!!」

 最近、よく見る。自分が産まれた時の夢。ただの夢にしてはあまりに生々しく、あまりに気持ちのいいものではない。事実、あの夢から覚めるたびに、むしゃくしゃして誰かを半殺しにしたくなる。
 学ランの内ポケットをあさり、タバコを一本取り出すと、それをくわえ火をつけた。晴天に消えゆくはかない紫煙の姿を見て、心を鎮めていった。

「くそ……どこかにいい獲物いないかな……」

 俺はどこにでもいるような普通の中学一年生だ。近江山中学一年C組。出席番号14番。髪はロングのストレート。女みたいな顔だとよく言われるが、男だ。俺の名前は、天童修司。

「ふぅー……」

 どこにでもいる普通の12歳だ。
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ジャンル : 小説・文学

鬼神伝

第2話 「憂鬱」

 人を見る目だけはあった。初対面の人間でも、ツラ見ただけでおおよその器は分かった。ガキの頃からそれだけが取り得だと思った。
 ただ、この特技にも欠点はある。それは自分の器量の小ささがいやでも分かっちまう、って事だ。俺には家業を継ぐだけの器がねえ……だが、そんな男を俺はまだ見た事がない。親類も含め、今まで出会った奴の中には。
 しかも、俺の家は厳しく、仮にそんな男に出会えたとしても、親は許さないだろう。他人に家督を譲るなんて事は。

「やっぱ、俺が継ぐしかねえ……か」

 ため息混じりにぼやきながら、学校の自転車置き場にマウンテンバイクを止めて、鍵をかけた。他には誰もおらず、静かなもんだった。まあ、3時間目の真っ最中なんだから誰もいないのは当たり前だ。
 人を見る目がある、というのは言い換えれば無意識のうちの他人を観察しちまう癖だ。我ながらそんな悪趣味な癖をどうにも好きになれず、他人を意識しないよう、あまり人に近づかないよう、一人でいる事が多かった。
 他人から声をかけてくる事、近づいてくる事、まして喧嘩を売ってくる奴なんて、まずいない。特殊な家庭の事情が災いしたのか、幸運だったのか、俺はいつも1人でいれた。

 俺はそんな暗い人間だった。近江山中学一年C組。出席番号9番。鮫島明(さめじまあきら)。天神会系暴力団鮫島組の2代目。になる予定の男だ。あんまり気乗りしないけどな。

「まあ、よしとするか……」

 とりあえず、学校にいる時ぐらい、家の事は忘れてお勉強でもしましょ。でも、とりあえずその前に一服、一服。
 どうせもう遅刻だし、今さら慌てる事もなかろうと、タバコに火をつけ、自転車置き場のトタンの屋根に白い煙を吹きつけた。風流だ……違うかもしれないが、そう思った時、人のリラクゼーションタイムを邪魔するバカがいた。
 タバコを踏み潰し、物音と声のするほうに行くと、校舎裏で喧嘩をしている生徒たちがいた。いや、5対1じゃ喧嘩というよりただのリンチだな。
 何て暇な連中だ。大体今は授業中だろ。学生なら学生らしくお勉強してろよ。まあ、この時間に登校してきた俺が言えた義理じゃねえが……
 まあ、いいや。これはきっと天が俺にくれた鬱憤晴らしの餌だ。勝手にそう思って、天を仰いだ時……

“ドサ”

 空から変なもんが降って来た。

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鬼神伝

第3話「野人」

“ドサ”

 空から降ってきたのは、俺たち近江山中学の黒い制カバンだった。だが、なぜこんなものが空から……

「おい。それはお前のか?」

 リンチをしていた奴の1人が俺に聞いた。ドレッドヘアーの鼻ピアス。上履きの色でそいつが3年の先輩だという事はすぐに分かった。

「いや、俺のはこれ。それは空から降ってきた……」
「チッ……」

 敬語を使わない後輩にたいそう不満がおありのようだが、俺のことを知っているらしく、下手に突っかかってくる事はなかった。だが、俺のいう事はあんまり信じている様子ではなかった。ちゃんと本当のこと話したのに。

「空からねぇ……」

 いぶかしむように、鼻ピアスが空を仰いだ瞬間、

“メキ!”

 その顔面に人が落ちてきた。

 黒く長い髪をなびかせて、女みたいな顔を鬼のように笑いながら、華奢にも見える細い体で、華麗なほど残酷に、鼻ピの顔面を踏み潰し、そいつは高らかに叫んだ。

「まず、1人!!」 

 マジか……マジでか……?こいつコレを狙ってやったのか?ウソだろおい……だって……
 俺は咥えたタバコに火をつけながら、チラリと校舎に目をやった。1階から4階までここに面する壁に窓はない。だとすると、こいつは屋上から鼻ピの顔面めがけて飛び蹴りかましに飛び降りたって事か?

「なんだ、てめえは!!」

 混乱気味な頭でとりあえず観戦してみようと思うと、鼻ピの仲間がすでに殴りかかかろうとしていた。

「ふ……」

 だが、屋上からダイビングキックを決めたロン毛は、不適な笑みを浮かべると、鼻ピの顔に立ったまま右足を上げ、それを襲い掛かってきた不良のあごに叩きおろした。不良は奇妙な音を立てながら不自然な角度で首を傾け、苔の生えたアスファルトに沈んでいった。

「これで二人!!」

 冗談だよな……?顔面へのローキックなんて聞いたことねえよ。どんなバランス感覚してんだよ。
 残りの三人も実に豪快で鮮やかなものだった。鼻ピの顔面からジャンプすると、そのまま1人をかかと落としで沈めて、うろたえて何も出来ないでいる1人にボディーブローを入れた。まともに入ったそいつは白目をむきながら口から色々なものを吐き出して倒れた。逃げ出そうとした最後の1人は後ろから組み付いてチョークスリーパー……と思いきや、首を、

“ゴキ”

 捻りやがった……下手すりゃ死ぬぞ……こいつマジで何者なんだ?

 リンチされていたいた奴を助けてやろうとするぐらいだから、根は悪い奴じゃないんだろうが……綺麗な面からは想像も出来ないほどの悪寒を感じる。それは捨て身の鉄砲玉なんかじゃない、本物の殺し屋が放つ臭いに似ていた。

 ダメだ。要領が計れねえ。こんな奴初めてだ。人を見る目には自信があるが、人とは思えないことをする奴まではわからねえよ。こいつはまるでケダモノ……いや、バケモノだ。

「さあて……残りは一匹」
「…………で、何で俺を見るの?」
「ラストはてめえに決まってるだろ?」
「何で?言っとくけど、俺そいつらの仲間じゃ……」
「んなのどうでもいいんだよ!!変な夢見てむしゃくしゃしてるから殴らせろ!!」
「それ…………マジで言ってるの?」
「うん」

 訂正。こいつはバケモノというよりバーサーカー……いや、バーバリアンだ。

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鬼神伝

4th 「Interesting」

 楽勝だな……
 それが鮫島明を見た天道修司の感想だった。ボサボサの金髪。やる気の感じられないボーっとした顔。青いカラコン。左耳にだけあけたピアス。
 口に咥えたタバコから登る、白い煙の向こう側に見えたのは、あまり喧嘩が強そうに見えない男子中学生だった。

 厄介だな……
 それが修司に対する明の印象だった。流れるような黒い髪。女みたいに綺麗な顔。爛々とぎらついた黒い眼。獣のような気迫。
 眼の前ですでに構えているのは、あまり普通の中学生には見えなかった。というか、人間にすら思えなかった。

「さあ、喧嘩しようぜ!!」
「盛ってんじゃねえよ、野良犬が。てめえ、俺が誰だか知ってるのか?」
「知らねえよ!!」
「自信満々に言うなよ……俺は天神会系暴力団……鮫島組の二代目(になる予定)の鮫島明だ」
「だからどうした!!」
「だからどうしたってお前……いや、だからね?ヤーさんとこのガキと揉めるとあとあと厄介な事になるよ?って言いたいの。てか、そのぐらい常識で分かるだろ……」
「俺はそんな下らない常識に縛られない!!」
「あーあ、言っちゃったよ……」

 それは常識を知らない馬鹿の言い訳でしかないだろ……と思いながらも、これ以上目の前のケダモノを刺激したくないので、明はため息をついてその気持ちをごまかした。というか、まともに相手をするのに疲れてきた。

「てゆーか!!やっぱり、てめえこいつらの仲間じゃねえか!!」
「はぁ……とりあえず聞くけど、何でそうなるの?」
「そうやって、自分がヤクザの息子だからって、こいつら脅してあいつをボコってたんだろうが!!」
「だから、それは違うって……あれ?お前むしゃくしゃしてるから喧嘩したいんじゃなかったの?何?ひょっとして彼を助けるために現れた正義のヒーローさん?」
「い、いや別にそういうわけじゃ……」
「ふ~ん……」

 明は初めて修司に興味が湧いた。

 他人のためにここまで必死に怒り、何の関係もなくても助けてやろうとする心。たとえ、相手がヤクザもんだろうが、一歩も引く気つもりはないその度胸。今時の奴らに欠けて、そして極道に必要な物をこいつは確かに持っている。ただの阿呆か、それとも大物か……この眼で確かめてみるか。

 明は大きく息を吸った。咥えたラッキーストライクの先端が橙色に光り、灰が落ちた。息を吐く。紫煙を混ぜて。迷いを捨てて。

「いいぜ……相手になってやるよ」

 その眼は、齢12にして完全な極道のそれだった。

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5th「Fight」

 明に向かって半身をずらし、左手・左足を前に出した修司の構えは、空手とも中国拳法のそれとも似ていたが、何かが違っていた。

 恐らくは型に縛られないフリースタイル……実戦で鍛えたいわゆる喧嘩殺法て奴か。こいつ、場慣れはしているな。でもま、その程度……それじゃ、お上品すぎる。

 明は修司の構えを見ただけで、彼の戦闘スタイルから気の持ちようまで、全てを見抜いていた。明が本当に見たい修司の底を除いて。

「どうした?構えろよ」
「いや……俺はこのまんまでいいよ」
「ほぉ……」

 明の構えに修司は両眉を吊り上げた。明の構えは構えとすら言えない。両手をポケットに入れたままタバコを咥え、棒立ちしているだけなのだ。

 舐めやがって……一撃で後悔させてやる。

 それが挑発である事にも気づかず、修司は右のフックを繰り出した。その刹那、

“ゴツ”

「な……!?」
「これが正しいローキックだ……よ!!」

 修司の左ひざに明のローキックが決まり、電撃が走った。その顔は当然の如く、苦痛で歪む。しかし、これはあまり正しいローとは言えない。

 普通、ローキックは脚部にダメージを蓄積させ感覚を麻痺させたり、パンチと併用し相手の意識を分散させるために使う。ローキック自体のダメージと言うのはさほど恐ろしいものではない。
 人体とは通常、間接・筋肉・脂肪とあらゆるクッション材がエアバッグのように、外部からの衝撃を吸収してくれるからだ。
 しかし、明のように踏み込んだ瞬間の筋肉が硬直する一瞬、その一瞬に間接部分を狙えば、ダメージを蓄積させるどころか、間接を破壊しうる危険な技になる。

 だが、明は一切の躊躇をしなかった。それは彼が極道の息子だからというわけではない。こんな屋上から飛び降りても、ピンピンしているような奴に遠慮はいらねえだろ。と思ったからである。

 だが、修司は明が思っていた以上に怪物だった。普通ならこんな事をされれば、膝が笑い崩れ落ちるか、下手をすれば破壊されるところを、

「く……そったれ!!」
「な!?」

 痛みを無視し、無理やり右のフックを打ち込んだのだ。明はそれを間一髪の所でかわしたが、咥えたタバコの先端が鋭利な刃物で切り落とされたかのように、なくなっていた。その上、ひりつく頬に手を当てると血が滲んでいた。

 おいおい、どんだけバケモノなんだよこいつは……仕方ねえ、ズルするか。

 明はポケットに潜ませていたものを取り出した。

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プロフィール

問道 火偉

Author:問道 火偉
年齢:死後3年と少し。
職業:オバケには学校も仕事もない。
趣味:その辺の人に憑依して小説を書く。これが本当のゴーストライター。

一言:この世には目には見えない闇の住人たちがいる。奴らは時として牙をむき、君たちを襲ってくる。私はそんな奴らから君たちを守るために、地獄のそこからやってきた正義の死者…………などではない。
 単なるアホです。お気軽にコメントして下さい。相互リンクも絶賛受付中。

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