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本当にあったら恐い話

 昨日、疲れていたとかなんとか言って暴走したせいで、本気で頭を心配された藤堂怪です。こんばんは。かしわもちさん……私は大丈夫です、頭以外はね。

 まあ、そんなわけで久々に短編小説でも書いてみようかな、と思う今日この頃です。ジャンルはタイトルを見れば分かると思いますが、ホラーです。それなりに気合いれて書くつもりなんで結構恐い作品になるかもしれませんが、絶対に最後まで読んで下さい。

注1:本当にあった恐い話です。フィクションです。
注2:必ず最後まで読んで下さい。
注3:例のプログラムは用法用量を守って正しくお使い下さい。



「エレベーター」

 皆さんは妖怪や幽霊などの怪物の存在を信じるだろうか?あたしは信じる……なぜなら、実際にこの目でみてしまったのだから……そう、この世には化学なんかじゃ説明出来ない事が本当にあるのよ……あれはつい先日、職場に忘れ物を取りに行った時の事だったわ……

 あたしの職場は15階建てのマンションの10階にある。そこへは1階のエントランスホールにある、各階に止まる、少し古い形のエレベーターに乗って上がっていく。エレベーターの中は少し古いせいか、ベージュ色の壁紙があちこち剥がれ落ち、それは皮膚をはがされた人間の肌のようにも見えた。
 あまり気持ちのいい物ではないので、あたしはエレベーターのドアにある窓から外の景色を見る事にした。と言ってもそれはずっと同じマンションの廊下しか写してくれなかったけど、それでも階と階の間に現れる黒い鏡に写る自分の顔は、いくらかほぐれたような気がした。

 10階に着き、エレベーターのドアが開いた。流れ込んでくる新鮮な空気と夏の夜の湿気。廊下の床は悪趣味な赤色で、消えたりついたりしている蛍光灯の光も、何だかこの世の物ではないような気がした。気味が悪い……
 そう思ったあたしは、急ぎの用事があったわけではないのだが、そこの雰囲気というか空気が嫌で、一刻も早く立ち去りたくなり、早足で仕事場がある廊下の一番奥の部屋の前まで来た。ハンドバッグの中をあさる。社長に預かったこの部屋の合鍵があるはずだ。急げ、急げ、急げ……

「おい、待てよ……」
「……!!!」

 頭の中で自分をせかすように、急げ急げとまくしたてていると、それに呼応するように背後から男の声がして思わず振り返った。

「…………」

 誰もいない……いや、いるはずがないのだ。なぜなら、あたしの背後には、高さ1m弱の廊下の柵しかなく、その向こう側は……あたしは恐る恐るコンクリート製のフェンスから顔を出し、下をうかがった。

「ほっ……」

 やはり、誰もいない。さっきのは何かの聞き間違いだろう。それでも、ますます気味が悪くなったあたしは、やはり一分一秒でも早くその場から立ち去りたくて、急いで合鍵で仕事場のドアを開けると、デスクの上に忘れていた携帯電話を放り投げるようにハンドバッグにしまい、再びエレベーターに乗り込んだ。

 エレベーターの換気扇が回り、電光掲示板のような階数を表示する機械は10から9へと変わった。そして、窓の景色も廊下から無機質な黒い鏡、そしてまた廊下へ。黒い鏡に写ったあたしの顔は夏の暑さのせいか、あるいは恐怖のせいか少し汗ばんでいた。
 それでも、やっとこの場から離れられるという安心感からか、9から8、8から7、7から6、と徐々に階数が減っていくごとに、あたしの顔にも余裕が戻ってきた。6階と5階の間の黒い鏡には余裕どころか、微笑みすら映し出されていた。

 だが、

 エレベーターの窓が5階の廊下を映し出した瞬間、その微笑が一気に凍りついた。廊下の一番奥の部屋の前から血まみれの男がこちらに向かって、何かを叫びながら、猛スピードで走ってくるのだ。
 だが、あたしは怯えながらも心のどこかで油断していた。なぜなら、あの男がいたのは廊下の一番奥。そこから全速力で走ったとしても間に合うわけがないからだ。事実、エレベーターは男を乗せる事なく下へ降りていった。

 しかし、5階と4階の間に写ったあたしの顔は恐怖で引きつっていた。たとえ、自分の顔でもそんなものは見たくないと思い、自然とうつむいてしまった。それでもやはり、4か3と下に行くにしたがって心は落ち着いていった。けれど……3階から2階に降りていく途中に妙な音が聞こえてきたのだ。

”ガチ、ガチ、ガチ、ガチ、ガチ、ガチ、ガチ、ガチ、ガチ、ガチ、ガチ、ガチ、ガチ、ガチ、ガチ……”

 何の音だろう?そう思って顔を上げた瞬間……














血まみれの男が廊下側の窓に張り付いていた。

「待てって言ってんだろうがああぁぁ!!」
「いやああああぁぁぁぁ!!」


 鬼のような形相でエレベーターのボタンを押す男の姿に、あたしは思わず少女のような悲鳴を上げてしまった。いや、それ以前に完全なパニックを起こしていた。

「いやああ!!いや、いや、いやああ!!」

 どうして!?5階にいたはずのあの男がどうして2階にいるのよ!?なんでよ!?ううん、そんな事どうでもいいから早く帰して!!あたしを解放してよ!!1階にはまだ着かないの!?あ……

 そこで、ようやくあたしは気がついた。無情にもエレベーターが止まっている事に……

“ビイイイイィィィィィィィィ”

 何かの警報音と共にエレベーター内の照明が落ち、血のように真っ赤な非常灯が点灯した。剥がれ落ちたベージュの壁紙が、炎でただれた皮膚のようにも見え、あたしは一瞬、地獄のそこへ落とされたような錯覚を覚えた。…………その瞬間。

“ゴトン”

 今度はエレベーターの天井に何かが落ちてくるような音が聞こえた。そうかと、思うと天井の一部が「ぎいぃぃ……」と不気味な怪物のような鳴き声をあげながらその口を開き、

“ゴトン”

 血まみれの男がエレベーターの中に降りてきた。そして、彼はゆっくりと立ち上がると、あたしに言った。

「ひどいじゃないか……どうして待ってくれなかったんだよ」
「ひ……」
「あんなに待てって言ったのによおおぉぉ!!」


 男は私の胸倉をつかみ、息が止まるかと思うほど締め上げ、持ち上げた。そして……

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テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

結婚記念日

 柱時計がなった。10年目の結婚記念日に妻とアンティークショップで購入したものだ。和風の我が家には場違いなほど洋風のものだが、どうしてもこれが欲しい、という妻の一言に負けて買ってしまった。あの時の妻はかわいかった。
 思い出に浸りながら時計に目をやると、単身と長針が重なり合って同じ方を向いていた。そろそろ昼食の支度でも始めるにした。妻に頼んでもしてはくれないだろうから。

 世間ではおしどり夫婦などと呼ばれているが、それも3年前までの話だ。私が定年退職してからだんだんと私たちは口数が減り、3年前からはとうとう「おはようと」と「お休み」ぐらいしか言わなくなった。少し寂しいがそんな事を口にすれば、妻は怒るだろうから言わないでおこう。

 妻が好きだったあさりのパスタをたいらげ、食器を流し台に持って行くときに、ふと気がついた。この皿も結婚記念日に買ったものだ。たかが皿に5万円というのは……と、思ったが、やはり妻にあの顔をされると私は敵わない。あの時のことを思い出せるなら、5万円の買い物は決して高くない。


 午後。息子夫婦から電話があった。用件は一緒に暮らさないか?というものである。やれやれ、私に似ておせっかいというか、お人好しというか。バカ息子め。私の事など気にする暇があったら、もっと奥さんを大事にしなさい。

「その奥さんが心配しているんだよ、クソ親父」

 おっと、どうやら声に出してしまったらしい。

「気持ちは嬉しい。だが、まだ君たちの世話になる気はないよ」
「父さん……」
「それに、どうせあと5,6年もすればお迎えが来る。その時は迷惑をかけるかもしれんが、黒い服を着て泣いてくれ。ハハハ……」
「縁起でもない事を言うなよ!」

 驚いた。息子が声を荒げる事など今までなかったのに。悪い冗談が過ぎたと、少し反省した。同時に息子が優しく立派な男になってくれた事を誇りに思う。途端に電話の声が変わった。どうやら、横でやりとりを聞いていた息子の嫁が心配になって、息子から受話器を取り上げたようだ。

「もしもし?お養父さん?食事はちゃんととれてますか?お洗濯とかお風呂とか不便はないですか?」
「はは……心配せんでも私はそこまでもうろくしておらんよ。大丈夫だよ」
「そうですか……お養父さんさえよければ、いつでもこちらにいらしてくださいね?」

 全く……今時の若者にしてはめずらしいぐらいのいい人だ。涙が出そうになるほど嬉しい申し出でもある。きっと、一緒に暮らせば今より幾らかは寂しさは紛れるだろう。しかし、私はそれでも妻といたい。

「40年余り……」
「え……?」
「40年余りだ。私が身を粉にして会社に勤め、一家を支えてきた。そのつもりだった。だが、実際はどうだろう?妻に楽をさせるはずが寂しい想いをさせ、幸せな思い出を作る事も出来ず、何もしてやれず、今ではろくに口も利いてくれない……」
「お養父さん……」

 息子の嫁は涙声になっていた。

「だから、決めていたのだ。定年を迎えたら、ずっと妻のそばにいようと。どんな事があっても離れないと。君たちの申し出は嬉しいが……すまん。私は妻のそばにいたい」
「はい……こちらこそすいませんでした……」

 その後、息子も「気が変わったら連絡をくれ」とだけ言って電話をきった。たぶん……気が変わる事はない。


 夜。書斎にて本を読んでいた私は、妻が愛読していた恋愛小説にしおりを挟み本棚に戻した。この本棚も半分以上が妻の趣味に染まっていて、よくここを訪れていた同僚を驚かせたものだ。その度に私は恥ずかしい思いで顔を赤らめて妻を恨みがましい目で睨んだが、今となってはそれもいい思い出だ。
 居間にある柱時計がなった。時計に目をやると、短針と長針は重なり合って同じ方角を向いていた。いい加減に寝るとしよう。私はいつものように、ずっと居間にいる妻に唯一交わす言葉を言った。

「お休み」

 妻は何も言わない。今日は結婚記念日だというのに。誕生日を忘れても結婚記念日だけは忘れなかった妻が何も言わない。私はふとこみ上げてくる寂しい思いを抑えきれずに、一気に吐き出した。

「君は……君は今日が結婚記念日だと言う事を覚えているかい?」

 妻は何も言わない。

「昔のように何かをプレゼントする事はもうできないけど、私の思いだけは聞いてくれ」

 妻は何も言わない。黙って聞いているだけだ。

「私はね。一日でも長く生きたい。君を悲しませたくないから。一分たりともここを離れない。君に寂しい想いをさせたくないから。けれど、本音を言えば一秒でも早く死にたい……」

 妻はいつもと同じように何も言わない……

「早く君の元へ行きたいからね」

 ただ、静かに遺影の中で微笑むだけだ。いつもと同じように。3年前の今日からずっと変わらず……

「それじゃ……」

 想いのたけを全て吐き出し、すっきりした私は冷たい寝室に向かう事にした。そして、返事などない事は分かっていても、つい言ってしまう。いつもと同じように。

「おやすみ……」

 しかし、居間を出ようとした時、聞こえたのだ。いつもと違って。

「おやすみなさない、あなた……」

 妻の声が。久しぶりに聞いたな。だが、なぜそんなものが聞こえたのだろう?私はそれほどまでに妻の事を求めていたのか?それとも弱音を吐いたから妻が怒ってしまったのか?いや……違うな。

 そうだ。そうだった。すまない。忘れていたよ。今日は私たちの結婚記念日だったね。




 たまにはこんな話を書いてみるのもいいかな、と思って書いてみました。感想などもらえれば嬉しいです。

テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

本当にあったら面白い話

注:タイトルよく見てください
注:本当にあった面白い話です
注:つまりこれフィクションです
注:実在する森羅万象全ての存在と無関係です
注:内容状、シモネタ出ます
注:苦手な人やめておいた方が良いでしょう
注:念のため言っておきます
注:恐い話ではりません
注:最後まで読必要はありません
注:最初からないかしれません
注:赤い字を並べ替えと……
注:特に何も起こりま
注:単に世にも奇妙な物語を意識したけです
チュウ:がしたいと思今日この頃です
注:それではどうぞ……世にも阿呆な物語

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テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

 私は夢を見た。それは不思議な夢だった。



 いい天気とは言いにくい、曇り空の下で、僕は犬の散歩をしていた。

 家で飼っている柴犬のような雑種だ。どこかに捨てられていたのを兄が拾ってきた。なぜ?ときけば、友達の顔ににているような気がしたから、らしい。

 犬は尻尾を振りながら歩いていた。嬉しそうに、楽しそうに、尻尾をふっていた。
 家から公園、公園を一回り、そして家へ、短く単調で面白みもなければ、変わり映えもしない景色を見て、こいつは何がそんなに楽しいのだろう?嬉しいのだろう?そんな事を思っていると、突然犬は僕に変な事を言ってきた。

「僕はね、生まれてくる日より五日も前に生まれてきちゃったんだ」

 最初、僕は意味が分からなかった。けれど、少し考えるとその意味はすぐに分かった。

「ああ、出産予定日より早く生まれてきたんだね」
「うん、だから僕は捨てられたんだ……嫌われて」

 僕は少し戸惑った。そんな過去があったなんて知らなかった。家に来る前のこいつの悲しみも苦しみも知らず、ただ頭をなでたり、ただ餌をあげたり、ただそれだけのことしかやってあげられなかった。だから、励ましてやりたくなって、なにか声をかけなきゃと思って、言った。

「馬鹿だね、そのお母さんは。じゃ、こんなに大きくなったってみかえしてやるといいよ」
「うん、そうだね……」

 犬の声はしずんでいた。しっぽもふってくれなかった。僕は言葉を間違えたのではないかと不安になり、走ろう、と言った。犬も頷き、僕たちは走った。嫌な事や、悲しい事をわすれるぐらい、がむしゃらに、力いっぱいに、思い切り走った。
 走り疲れて、喉がかわいた僕は自動販売機がないか探した。けれど、どこにも見当たらず、やきもきしてまた走った。走った。走った。走った。でも結局、自動販売機は見つからなかった。その代わり、悲しい事や嫌な事はすっかり忘れてしまっていた。けれども、とても大事な事も忘れていたことに僕は気づかなかった。



 目が覚めて私はそれがなんなのか、分かった。そうだ、私はあの犬の事を忘れていた。途端に胸の奥底から罪悪感があふれ出し、両目から悲しみが洪水のように流れ出した。私は年甲斐もなく声を荒げて……泣いた。
 あんなに大切にしていたのに……あんなにかわいがっていたのに……いや、ウソだ。大切にしていないし、かわいがってもいない。
 嫌な事や、機嫌の悪い時は八つ当たりをして、気分がいい時だけ、頭をなでまわし、かわいがっているフリをしていた、嫌なガキだった、私は。それでも、あいつはいつも尻尾を振って喜んでくれた。何もしなくても姿を見せるだけで。あいつはいつも守ってくれた。泥棒のふりをしてこっそり家に入ると一生懸命に吠えてくれた。

 そんな犬に私は取り返しのつかない過ちをしてしまった。あれは犬を動物病院に連れて行く事を決めた日の事だ。年老いた犬は癌におかされていた。癌の事は後から知ったのだが、その時は犬が全身を痙攣させ、ゲロを吐き、1人では立ち上がる事すらできない状態で、私はどうしたらいいか分からずとにかく病院に連れて行くべきだと思った。その時犬は、

 すっと立ち上がって見せた。本当はもう立てないはずなのに。

 尻尾を振っていた。苦しくて仕方ないはずなのに。

 散歩に行こう。そう、言っているように見えた。

 けれど、私はその犬を病院に連れて行ってしまった。必ず治してやるからな。そう言ったのに、診断の結果は残酷だった。腫瘍が見つかりました。年齢が年齢ですので、手術で取り除く事は不可能です。延命処置をしても寝たきりになってしまうでしょう。
 何を言われているのか、最初は理解できなかった。徐々に言葉の意味と犬の容態が分かり始めた。獣医の言葉で一番ショックだったのは、もう少し筋肉があれば手術できたかもしれない、というものだった。もし、もっと散歩してやれば筋肉がついて、手術ができて、助かったのかもしれない。だが、現実の世界にifはない。あるのはor。どちらを選ぶかという選択肢。延命処置か、それとも……
 私は完全に頭が混乱していた。いや、結論は出ていた。延命だ。例え、望みは限りなく薄くても、どんな姿でも生きていて欲しい。という本当に偽善者ぶったエゴだ。しかし、兄は言った。

「安楽死でお願いします」

 なぜ、と聞く前に兄は答えた。無理やり生かしてもこいつを苦しめるだけだ、と。半分は納得した。残りの半分の気持ちは押し殺した。犬にとって散歩は唯一の娯楽だ。生きがいと言ってもいいだろう。それができなくなるような姿で、人間の勝手なエゴで生かされても、幸せかどうか……

 私たちは動物病院の二階に上がった。そこで犬と最後の別れをするために。犬の姿は痛々しかった。見るのが辛かった。最早、体はおろか頭を起こす事さえできず、わずかに尻尾を動かすぐらいだった。辛かった。今からその命を奪おうとする薄情な飼い主に尾を振る姿は見ていて辛かった。
 獣医が取り出したのは一本の注射器だ。中身は筋弛緩剤。文字通り、筋肉の力を奪い、心臓を止め、死に至らしめる薬品だった。針が犬の体に刺さり、注射器の中身が注ぎ込まれていった。
 犬の動きが徐々になくなり、やがてそれはなくなり、もう二度と動く事も尻尾を振る事もなくなった。眠るように安らかに……とは言いがたく、刑事ドラマで毒殺された被害者のように目を見開いて死んでいた。その目を獣医か看護師か誰かが、そっと閉じてくれた。獣医が犬の腹を押すと、筋肉が緩んだせいで糞尿があふれ出した。
 安楽死。安らかに、楽に、死なせる。とてもそうには見えなかった。苦しんでいるようにしか、まだ生きたいと言っているようにしか、見えなかった。その時、ふと、思い出した。犬が病院に来る前に見せた最後の姿。元気なフリをして散歩に連れていこうとするあの姿。もしかして、自分の死期が分かっていたのか?だから、最後に散歩に行きたかったのか?
 途端に罪悪感に胸を押しつぶされそうになり、あふれる涙で前が見えなくなった。ただ、まだぬくもりが残っている頭をなでながら謝るしかできなかった。

「ごめんね……ごめんね……ごめん……」

 布団の上で、天井を見つめながら、あの時と同じ言葉を繰り返しながら、涙を流していた。



 なぜ、こんな事を……ああ、そうか。あの夢か。あの夢を見たおかげで、あの犬の事を思い出し、忘れてはいけないと思い、今こうして書いているわけだ。本当に嬉しいはずなのに悲しい、楽しいはずなのに切ない、不思議な夢だった。

テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

アンティークショップ

 いらっしゃいませ。ようこそアンティークショップ・HEAVENへ。当店では他ではお目にかかれない不思議なものばかりを取り扱っております。そしてどの商品にも他では聞いた事もないような不思議なエピソードがあります。一つ、お話し致しましょうか?
 お客様は物に魂が宿る、という話をご存知ですか?え?そんなはずはない?いえいえ……あるのです。長年、人の手によって愛された物には魂が宿り、心が生まれ、それは時として憎悪と惨劇を作り出すのです……
 そうですね……例えば、これ。このかわいらしいフランス人形。この一見どこにでもありそうなお人形にも、魂と心があり、それは時に……悲劇を生むのです……お話し致しましょう。

~~The doll~~

 俺の趣味はフィギアの収集だった。とりわけ、美少女アニメのフィギアや日本人形、フランス人形と女の形をした人形を見境なく集めてきた。コレクションが一つ増えるたび、棚の空きスペースが埋まるたび、曰く形容し難い達成感と幸福感を、俺は感じていた。

 人形が好きなんだ……人間なんかよりも遥かに。

 人間は醜い。すぐに嘘をつく。人を騙し、傷つけ、蹴落とそうとする。向上心が豊かだと言われている奴らの大半は、自分を高めようと努力する者たちではなく、自分以外の人間を自分より下の位置に引きずり、あるいは蹴落と必死になっている。なんとも醜い……
 だが、人形は違う。人形は決して人を傷つけることなんかしない。物言わぬ彼女たちにそんな事はできない。だが、俺の愚痴を黙って聞いてくれる。そして、いつでも微笑んでくれる。決して裏切ったりなんかしない。だから……人間なんかより大好きだ。

 しかし、そんな感情は寂しさを紛らわすための……いや、ただの負け惜しみだった。
 俺は昔から胃腸が弱く、ちょっとした不安や些細な動揺を感じただけで、腹部に強烈な激痛を感じていた。そんな、人間が外で元気よく遊べるわけがなく、また親がそんな事を許すはずがなく、引きこもりがちになった俺が人間とコミュニケーションを取る事を得意としなかったのは言うまでもない。
 そんな事に気づいたのは、気づかせてくれたのは彼女だった。自分でも驚くべき事に、こんな俺に彼女ができたのだ。

 出会いは無理矢理参加させられた会社の飲み会だった。正確に言えば入社した時点で出会ってはいるが、まともに口も聞いた事もなかった。よく言えば大人しい静かな子で、悪く言えば薄気味悪い暗いオカルト映画に出てきそうな女。大半の男性社員は後者にとり、俺は前者だった。その事を飲み会で口走った。

「君は静かでお人形さんみたいだ。だが、いい。俺はうるさい人間より静かな人形のほうが好きだ」

 飲み会に参加してバカ騒ぎしている連中への嫌味と愚痴のつもりだったが、どういうわけか彼女にとってそれが生まれて初めての告白に聞こえてしまったらしく、俺たちはほどなく付き合うことになった。全く……運がいいんだか、悪いんだか……
 
 彼女は人間だ。人形じゃない。嘘もつくし、醜いところもある。けれど、それを含めても許せた。それどころか好きになれた。愛してもいた。ずっと一緒に居たいと思った。彼女の為になら死ねるとさえ、本気で思った。だから、彼女に婚約指輪を送ったのは必然だった。
 けれど、俺は彼女と親しくなればなるほど、彼女と過ごす時間が長くなればなるほど、人形たちの事を忘れていった。冷たい微笑より、ぬくもりのある微笑みに魅せられていた。

 だから、彼女を部屋に招いた時、ひどく「しまった」と思った。コレクションを隠すべきだった。いや、せめて彼女に昔の趣味を話しておくべきだった。俺の部屋の物言わぬ住人たちを見た彼女は、驚きを通り越し、まるで長年連れ添った夫に裏切られた妻のように烈火の如く怒った。

「この人形たちを全部捨てて!!お願いだから!!」

 自分の世界を否定されような気がして少し傷ついたが、その反面安心もした。俺の趣味はおおよそ女性には理解してもらえないものなのだから。それを嫌がるという事は、彼女も皆が噂するような不気味なオカルト女ではなく普通の女性という事なのだから。

 人形は捨てる事に決めた。売る事など考えられない。俺以外の誰かが彼女たちを触り、薄気味の悪い笑みを投げかけるところを想像すると、売る事など到底考えられない。人形は全て捨てる事に決めた。

 そして、人形を捨ててから三日後、彼女との結婚を間近に控えたその日、一本の電話が携帯にかかってきた。知らない番号だったが、取引先かもしれないと思い出た。

『もしもし……』

 声は少女だった。そして、その名は……

『あたし、メリーさん

 あまりに有名だった。
 人形を愛でていた俺がその怪談を知らないわけがない。だが、それでも最初は本当にいたずらだと思った。思いたかった。

『今ね、ゴミ焼却所にいるの。他の子はみ~んな焼かれちゃった。けどね、あたしだけはなんとか逃げてきたんだよ♪』

 声は明るかった。まるで、遠足を明日に控えた子供のように、クリスマスの夜にサンタにお願いする少女のように。だが、なぜか、そのふしぶしに怒りと憎しみを感じた。いや、なぜか……などというのは間違っている。俺が彼女たちにした仕打ちを怨んでいるのだ。その証拠に……

『イマカラ、オマエノトコロニ、イク』 

“ブツ、ツー……ツー……”

 機械音声のように不気味な声に変わり電話がきれた。腹部に激痛が走り、リビングに駆けた。テーブルの上の薬箱にしまっておいた錠剤を飲み、一息ついた。徐々に痛みが引いた頃、また電話がなった。

「もしもし……」
『もしもし。あたしメリーさん。今あなたの家の近くの駅にいるの』

 耳を澄ますと、電車のアナウンスが聞こえてきた。確かに近所の駅だ。

『お腹はもう大丈夫かな?』
「な……!?」
『じゃあ、また電話するね』
「ちょっと待て、なんで腹の事を……」
『デロヨ』 

“ブツ、ツー……ツー……”

 こっちの言う事なんて聞かずに電話を切った。携帯の電源を切れば奴の電話を聞かずにすむかもしれない。だが、そうする気になれなかった。恐怖よりまず、怒りを感じていた。
 俺の話を聞かず、一方的に話してきるなんて、それが人形のすることか。あれではまるで、人間じゃないか。そう、思った時……また電話が鳴った。

『もしもし。あたし、メリーさん。今あなたのお家の近くのコンビニの前よ』
「そのようだな。コンビニの音楽が聞こえてくるよ。しかし、驚きだ。今時の人形は携帯電話を持っているのか?」

 精一杯、思いつく限りの嫌味だった。

『あなたは…………あたしたちより、あの女を選んだんだよね?』

 あの女がすぐに彼女の事だと分かり、無意識のうちに立ち上がっていた。

「ふざけるな!!あの子は関係ないだろ!!」
『クスクス……おっかしぃ~。じゃ、また後でね~』
「おい待て!!」
『ウルサイ』 

“ブツ、ツー……ツー……”

 この頃になって……ようやく恐怖が怒りより大きくなり始めていた。考えたくもないが、考えられる最悪の事態。彼女が俺のせいで死ぬ……それだけはなんとしても阻止ししなければ……
 また痛み始めた腹痛を薬で抑え、一息ついた所でまた電話がきた。

『もしもし。あたし、メリーさん。今、あなたのお家の前にいるの』
「そうか……」
『どうしたの?元気がないよ?会社で嫌な事でもあったのかな?クスクス……』
「なあ、お前が怨んでいるのは俺なんだよな……?彼女には手を出さないよな……?」
『………………あなたって』
「え……?」
『ううん、なんでもない♪』

“ブツ、ツー……ツー……”

 様子が変だった。いきなりきるのは今までと同じだが、あの恐ろしい声はしなかった。むしろ、笑っているような……それも、泣いているのに無理して笑っているような……そんな声だった。
 玄関には向かわなかった。その必要がないと分かっていたから。俺は洗面所の鏡の前でメリーさんの電話を待っていた。次に現れるのは俺の後ろのはずだから。電話だ。

「はい……」
『もしもし。あたし、メリーさん。今、あなたの……』
「ああ、見えてる……」

 鏡に映った俺の後ろに、綺麗なフランス人形が浮いていた。あれは初めての海外旅行先で古美術商に売ってもらったものだ。よく、覚えている。

「久しぶりだな……」
『三日ぶりよ……あたしにとっては』
「そうだったな……なあ、彼女には何もしないでくれ……あの子は悪くない」
『ええ、悪いのはあなたよ。あの子は悪くないわ。だから何もしない』

 普通なら絶望に打ちひしがれるところなのに、俺はひどく安堵した。この子が彼女に何もしないという保障などどこにもないかもしれないが、それでも俺は人形は嘘をつかないと信じていたから。

『あんな部屋見せられたら、女の子なら誰だって気持ち悪がるに決まってるでしょ。あたしだって初めて見たときは怖かったもん』
「恐かったって……お前も人形だろ……」
『そりゃ……そうだけど……限度ってもんがあるでしょ……』

 人形が喋るとこうなるのか?まるで人間みたいじゃないか……

『ねえ……初めて会った時の事覚えてる……?覚えてるわけないか……』
「いや、さっき思い出したよ。生まれて初めての海外旅行の時、フランスの古美術商に君を見せてもらった。その瞬間、魅せられた。世界にはこんな美しい人形があるものなんだと感動して、有り金のほとんどをはたいて衝動買いしたんだ」
『覚えて……いてくれたの?』
「全て覚えているわけじゃないが、君は特別だ……あまりに衝撃的だったからね……逆に忘れるほうが難しい……」
『ウソ……忘れてたくせに……』
「あ、ごめん……」
『もういい!!』

“ブツ、ツー……ツー……”

 電話は突然きれた。それが合図なんだと心を決めた。もう少し、話がしたかった……そう、思って振り返ると……そこには誰もいなかった。

 どういうことか理解できなかった。てっきり、死ぬものだとばかり思った。彼女のところに行ったのかとも思い、電話をかけたがそうでもなかった。リビングで頭を抱えた。同時に腹を撫でていた。あの子への罪悪感から、薬を飲んでも腹痛は収まらなかった。こんなに苦しむならいっそ……
 そう思った時……電話がなった。

「もしもし……?」
『もしもし。あたし、メリーさん』

 やはり、あの子だった。だが、あたりを見渡してもその姿はどこにも見当たらず、ただ罪悪感と恐怖感と腹部の痛みが増していくだけだった。だが、電話の向こうから妙な音が聞こえてきた。何かが、脈打つような…………

「ま……さ……か……」

 そして、その時気づいた。

『今、あなたの中にいるの』

 腹痛の原因に。

「おま……え……」

 あまりの激痛に耐えられず、俺は仰向けに倒れた。それと同時に恐ろしい宣告を聞かされた。

『今からお外に出るね?』
「おい……ちょっ……」

“ビリ”

 止める間もなく、絹糸を裂くように腹部が切り開かれ、中から美しいまでに血まみれなフランス人形が現れた。そして、それは俺の胸の上をとことこと歩いて登り、小さな深紅の手で俺の唇の両端をぎゅっと掴んだ。弱弱しく、あるいは力強く。

「はぁ……はぁ……」
『本当はね……あの人はね……別に人形が気持ち悪かったわけじゃないの……』

 何の話だ?

『霊感が強すぎたの……だからね……私がいる事にすぐ気づいた……邪魔になった、ってわけでもないんだけど……それでも、あなたの心が自分から離れていくのが恐かったんだと思う。だから……本当は優しいいい子なのに……あんな恐い事言ったの……』
「待って……くれ……あの子は……あの子は悪くない!」
『うん、さっきも言ったけどあの子は悪くないの。あの子の気持ち凄くよく分かる。反対の立場だったら……同じ事してたと思う……でも、私は本当はあなたたちに幸せになって欲しかった。ううん、あなたに……』

 ガラス玉の瞳から零れ落ちたのは、クリスタルより綺麗な涙だった。

『だって!あの人と付き合うようになってからのあなたは、とても生き生きして幸せそうで、あたしなんかじゃ、人形なんかじゃあの人の代わりにならないって分かったから!!』
「なら……どうして……俺を……?」
『許せなかったのよ!!あの人にあんな事、言った事が!!あれは特別なあたしだけに言ってくれる、特別な言葉だと思っていたのに!!』

 あんな……事?ああ……そうか……あれか……

『それに人形を捨てる時も、あたしだけは特別だから、あたしだけはきっと助けてくれるって思っていたのに!!』
「それは……」

 誰にもお前を触られたくなかったから……なんて言えない……

「そうだな……ゴメンな……」
『もう、遅い!!もう、何もかも手遅れよ!!』
「ふ……ふふ……」
『何がおかしいのよ!!あたしは真剣なのよ!!』

 そうか……そうなんだ……人間とか、人形とか、ぬくもりがあるとかないとかじゃないんだ。そういうことじゃないんだ。そうじゃなくて、この子は女の子で、女性なんだ。

「君は……静かで大人しくて……ごふっおふっ!!はぁ……はぁ……綺麗で…………まるで……まるで、お人形さんみたいな……女の子……だね……でも、そこがいい。お……俺は……うるさい人間より……人形の方が好きだ……から」
『何を……ん!?』

 最後の力を振り絞り、交わした口づけは、小さく、冷たく、硬く、けれど、けれども、それは確かに女の子の、女性の唇だった。

「人間くたばりゃ……動かない……そうなりゃ人形と同じだ……君と同じ……」
『う……うぅ……』
「ずっと、一緒だ…………」
『うわあぁぁぁ……!!』

 ゴメンね……寂しい思いをさせて……ゴメンね……悲しい思いをさせて……ゴメンね……もう、何もできなくて……今まで………………あり…………が……………………と………………

“ブツ、ツー……ツー……”

~~~~~~~~~~~~~

 物も愛し続ければやがて魂が宿り、心が生まれます。そうした物たちは、時に自分を愛してくれた者を愛する事があります。一見するとこれらは相思相愛のように思えますが、実はそうではないのです。決して相容れず、結ばれぬ悲しい愛。生み出すは、ただただ悲劇と涙ばかり……

「ちょっと、いい加減にしなさいよ!!」

 あれ?メリーさん?聞いてたてんですか?

「あったり前でしょ!!あんた、何勝手に変なエピソード作ってんのよ!!」

 ちょっと~メリーさん?黙っててもらえます?もうちょっとで売れそうなんですから~それ以上喋ると営業妨害ですよ?

「んな、ウソ話なんかなくても、あたしのダイナマイツセクシーな魅力あふれるバデーで客なんていくらでも寄ってくるわよ!!そこのあんた!!あたしを買いなさい!!安くしとくから!!」

 あの~商品が勝手に商売しないでもらえます?

「え?さっきの話は本当にウソかって?当たり前でしょ!!よく考えてごらんなさい!男視点で話してんのに最後には男死んでんのよ?じゃあ、このバカ店長はだれにその話聞いたってなるでしょ?」

 うわぁ~最悪だよ、こいつ……全部ばらしやがった……

「さ、分かったらあたしを買いなさい。大丈夫よ。呪い殺したりなんてしないから!!それになくしてもあたしには帰巣本能があるから、必ずあなたのお家に戻るわよ♪凄いでしょ?あれ?ちょっと?ねえ!!どこ行くのよ!!」

 は~い、またのお越しを心よりお待ちしておりま~す。

――おまけもあるよ――


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テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

問道 火偉

Author:問道 火偉
年齢:死後3年と少し。
職業:オバケには学校も仕事もない。
趣味:その辺の人に憑依して小説を書く。これが本当のゴーストライター。

一言:この世には目には見えない闇の住人たちがいる。奴らは時として牙をむき、君たちを襲ってくる。私はそんな奴らから君たちを守るために、地獄のそこからやってきた正義の死者…………などではない。
 単なるアホです。お気軽にコメントして下さい。相互リンクも絶賛受付中。

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