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オレオレ詐欺師の奮闘記

 これはある一人の詐欺師の日常を描いた物語である。

第一話「間違い」

 薄暗いオフィス。オフィスと言ってもちゃんとした事務所ではないし、社員もいなければ事務用品などもない。あるのは一つの安っぽい机と、フリーマーケットで購入した990円の電話だけだ。
 その机に腰かけ、外の雑踏を眺める一人の男……彼こそがこの物語の主人公、自称天才詐欺師のエース(仮名)だ。エースは決して本名を名乗らない。
 足がつかないために、たとえ詐欺師仲間にネーミングセンスを疑われたり、病院に行った方がいいんじゃないかと、本気で頭を心配されても、本名を名乗らない徹底したプロだ。

 そのプロが受話器を取る。ターゲットは80代後半の男性。そう、俗に言う「オレオレ詐欺」の始まりだ。2,3回コールがなった後、受話器の向こうから老人の声がする。

「はい、もしもし山田(仮名)ですけど……」
「あ、じーちゃん?オレオレ」

 すかさず、孫のふりをしてたくみに老人の心理を誘導しようとするエース。だが、相手も一筋縄では行かなかった。

「はて?電話番号をお間違いなのでは……?」
「(チ……案外しっかりしてんじゃねえか……)」

 心の中で舌打ちをするエース。だが、ここで引き下がる彼ではなかった!!

「おいおい、じーちゃん……かわいい孫の声を忘れたの?」
「いや、しかし……」

 エースが必死に食い下がるも、老人はなおも孫の存在を否定した。彼にはエースが自分の孫であるはずがないという確信があったからである。なぜなら……

「私、まだ童貞なんですけど……」
「(え、ええぇぇ……)」


 突如、解き放たれた老人のカミングアウトに絶句するエース。さすがの彼も、これでは引き下がるより他はなかった。

「す、すいません。間違えました……」
「いえいえ、いいんですよ。誰にでも間違いはありますから」

 そう、どんなプロにでも、誰にでも過ちというものはある。だが、ターゲットの家族構成を事前に調べておかなかったエースが悪いのではない……ただ、あの老人の若い頃になにも過ちがなかった……というだけである。

「ちくしょう……彼女欲しいな……」

 頑張れエース。負けるなエース。そして、泣くんじゃないエース。こっちまで泣きたくなるから……

続く

 
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テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

オレオレ詐欺師の奮闘記

 これはある一人の詐欺師の日常を描いた物語である。

第二話「若さ」

 薄暗いオフィス。オフィスと言ってもちゃんとした事務所ではないし、社員もいなければ事務用品などもない。あるのは一つの安っぽい机と、フリーマーケットで購入した990円の電話だけだ。
 その机に腰かけ、外の雑踏を眺める一人の男……彼こそがこの物語の主人公、自称天才詐欺師のエース(仮名)だ。エースは決して本名を名乗らない。
 足がつかないために、たとえ詐欺師仲間にネーミングセンスを疑われたり、病院に行った方がいいんじゃないかと、本気で頭を心配されても、本名を名乗らない徹底したプロだ。

 そのプロが受話器を取る。ターゲットは90代前半の男性。今回は家族構成も調べて置いたから大丈夫。奥さんも子供も孫もちゃんといる男性だ。2度3度コールが鳴り、弱々しい老人の声が聞こえた。

「はい……もしもし……」
「あ、もしもしジーちゃん?俺だよ、オレオレ!」

 間髪入れずにオレオレと連呼するのは焦っているのではない。相手に考える隙を与えないテクニックである。これにより、考える暇がないターゲットは……







「ワシは17歳の女子高生じゃ!!孫などおらん!!」 

 自分を見失ってしまった。

「…………」

 呆然とするエース。受話器の向こうから聞こえてくる、電話が終わった後の、「ツーツー」という悲しい電子音。なぜか涙が出そうになる自称天才詐欺師。
 心配するな。お前は悪くない。ただ、今回のターゲットが少しお歳を召しすぎていただけだ。頑張れエース。負けるなエース。きっと次も失敗すると思うけど。

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オレオレ詐欺師の奮闘記

 これはある一人の詐欺師の日常を描いた物語である。

第三話「しっかり者」

 薄暗いオフィス。オフィスと言ってもちゃんとした事務所ではないし、社員もいなければ事務用品などもない。あるのは一つの安っぽい机と、フリーマーケットで購入した990円の電話だけだ。
 その机に腰かけ、外の雑踏を眺める一人の男……彼こそがこの物語の主人公、自称天才詐欺師のエース(仮名)だ。エースは決して本名を名乗らない。
 足がつかないために、たとえ詐欺師仲間にネーミングセンスを疑われたり、病院に行った方がいいんじゃないかと、本気で頭を心配されても、本名を名乗らない徹底したプロだ。

 そのプロが受話器を取る。ターゲットは爺さんだ。今度は家族もいるし、しっかり者と評判の爺さんなんで、前回のような悲劇は起こらないだろう。呼び出しコールが2、3度鳴り老人の声がした。

「はい、もしもし……」
「もしもし?オレオレ」
「はて?どちらさんですか?」
「俺だよじーちゃん!孫の声忘れたの!?」
「おーおー、その声はタカシか?」

 かかった!!と思わず叫びそうになるエース。その手はガッツポーズに、その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。もう、ここまでくれば成功したも同然である。

「そうそう、そのタカシなんだけど……実は俺さっき車で人を跳ねちゃってさ……しかも、その人がヤクザみたいな人で……それで、今日中に慰謝料の100万円を払わないと殺されるかもしれないんだよ!!」

 切羽詰った声で迫真の演技をするエース。しかし、相手はしっかり者の爺さんである。

「はて……?お前、確か今は宇宙ステーションにいるはずじゃ……

 その孫はもっとしっかりした宇宙飛行士さんだった。

「(う、宇宙ステーション!?タカシ何者だよ!?)」

 だから、宇宙飛行士だよ。分かれよ、そのぐらい。

「そうか……ヤクザも宇宙に進出する時代になったか……

 落ち着け、ジジイ。それはない。

「いや、待てよ……ヤクザが宇宙に進出したなどNASAは一言も言っておらんぞ!?」

 NASAはそんな下らない冗談を言うほど暇じゃないだろ。

「お前が本物のタカシかワシが作ったこの声紋識別装置で……」

“ガチャン”

 受話器を叩き付けるエース。そして、窓を開けると大きく息を吸って、外の雑踏に叫んだ。

「何だよ、声紋識別装置って!!何でジジイがそんなドラえもんの秘密道具みたいな物作れるんだよ!!しっかりしてるにも程があるだろ!!」

 彼の悲しい叫びは車の騒音にむなしくかき消されて行った……

 頑張れエース。負けるなエース。人間生きてりゃいいことあるさ。たぶんだけど。

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オレオレ詐欺師の奮闘記

 これはある一人の詐欺師の日常を描いた物語である。

第4話「親の心」

 とある雑居ビルの2階。いつもと同じように、蛍光灯の一つもついていない薄暗いオフィスの机に、エースは腰かけ紫の煙を部屋の中に充満させていた。だが、今日のエースは一味違う。鋭い目。冴える頭。使いまわしではないオープニング。何もかもがいつもの彼とは一線を画していた。

 その彼がタバコをガラスの灰皿に押しつぶして、その手で受話器を取る。今日のターゲットは老人……ではなく、50代の主婦である。



 オレオレ詐欺と言ってもその手口はさまざまなものがある。今回のケースは新卒の社会人を息子に持つ、主婦がターゲットである。手口はこうである。会社の先輩を名乗りターゲットにこう告げるのだ。

「息子さんが取引先に発注ミスをしてしまい、今日中に100万円を用意しなければ会社にばれてクビになるかもしれないんです」

 もちろんターゲットは不審に思うかもしれない。しかし、会社に知れれば息子の立場が危うくなるので会社に確認をとることなどできない。息子本人に事の真相を確かめようにも(詐欺師の仲間が無言電話などをかけまくり電話を使えない状態にしているため)携帯はつながらない。
 そして、その間にエースが言葉巧みにターゲットを誘導し、タイムリミットである午後3時が訪れようとする。

「もう時間が……かわいい息子のためなら100万円ぐらい……」

 そう、ターゲットに思わせるのである。これ以上の詳しい説明は新・クロサギ1巻を読むとよく分かるだろう。ぶっちゃけ、パクリですから。



 数回の呼び出しコールが鳴り、やがて主婦の声が聞こえて来る。エースが心の中でつぶやく……

「はい、もしもし……」

 さあ、狩りの始まりだ……

「あ、もしもし。私、丸罰商事の山田と申します」
「あら、丸罰商事って言ったら……息子の会社の方ですか?いつも、息子がお世話になっています」
「ええ、実はその……息子さんが取引先に発注ミスをしてしましい、今日じゅうに100万円を用意しないと会社にその事がばれてクビになってしまうかもしれないんです」
「へぇ……社会人も大変ねえ……」
「(あれ?何その冷たいリアクションは!?あんたの息子大ピンチなんだよ!?分かってる!?)」

 少々手ごわい相手だが、エースはひるまない。

「あの……それでですね……息子さんもこういう事はいいにくいようなので私の方からお願いいたします。非常に申し上げにくいのですが、その100万を……」
「はぁ!?何であたしがそんな事しなければならないのよ!!あのバカ息子に言っときな!!てめえのけつはてめえでふけってな!!」
「(な……なんというスパルタカス!!)」


 スパルタカス……紀元前109年から紀元前71年まで生きた、ローマ期の剣闘士であり、彼が言いたいスパルタ教育とはなんら関係はない。
 しかし、主婦の恐ろしさはとどまる事を知らない。己のスパルタっぷりを見せつけた、その舌の根も乾かないうちに彼女は言った。

「そんな事より、この前競馬で大負けしちゃってね……ねえ、あんた。3000万でいいから貸してくんない?」
「(な、なんというラオウっぷり!!)」

 ラオウ……世紀末に出没するキング・オブ・ジャイアニズムである。

「…………」

 無言でそっと電話を切るエース。彼の頬に一筋の光。勝てない。勝てるわけがない。だって、ラオウだもの。キング・オブ・音痴だもの。仕方ないさ、エース。負けるな、エース。次回辺りはきっと上手くいく。と、思う。

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 これは一人の詐欺師の日常を描いた物語である。

最終話「詐欺師よ、永遠なれ」

 今日はいつもの事務所を飛び出し、銀行にやってきたエース。目的は通帳記入……つまり、ターゲットからの振込みがあったかチェックしにきたのだ。あるわけねえだろ、そんなもの。と、お思いのあなた。それは違う。
 これまでは彼の失敗エピソードばかりが語られてきたが、実は成功例もあるのだ。いや、むしろ失敗するほうが少ない。エースはとてつもない量のターゲットを騙してきたのだ。その数、なんと1ヶ月に200以上である。これがエースの天才たる所以である。

 では、気になるその中身を見てみよう。

Aさんからの振込み……1500円
Bさんからの振込み……1049円
Cさんからの振込み……230円

 これはもう詐欺というよりただの寄付では?1049円なんて中途半端な額、どうやって振り込ませた?230円なんて振り込み手数料の方が高いのでは?さまざまな疑問が尽きないが、アベレージは850円。それが200回にもなると約19万円の収入になる。まさに塵もつもればなんとやらである。
 しかし、ここから必要経費を引いていかなければならない。

ビルのテナント代……8万円
電話代………………5万円
自宅の家賃・電気・ガス・水道・食費……4万円

エースの手取り……2万円

詐欺師のプライド……プライスレス

 お金で買えない物がある。買えるものはマスターカードで。
などと、言っている場合ではない。エースにはその魔法のカードすらない。というか、たぶん持てない。

「ち、仕方ねえ……」

 エースはとうとう最後の勝負に出る事にした。情報屋からタダ同然の安値でもらったファイルに目を通し、ターゲットに狙いをつけると、素早くその番号をプッシュした。数回のコールの後、若い男の声。

「ありがとうございます。コンビニエンスストア、イレブンセブンでございます」
「あ、もしもし……求人情報誌を見てお電話させていただいたのですが……」

 エースはアルバイトをする事にした。まあ、必要経費の13万が浮くなら、詐欺よりバイトの方が遥かに効率はいい。頑張れエース。負けるなエース。その本当の名は……

「アルバイトの方ですね?では、お名前と連絡先を教えてもらってよろしいでしょうか?」
「はい、山田太郎といいます……」

 山田太郎。思い切り適当に付けられた名前だが気にするな。どんな形であれ、君に幸あれ。そして、詐欺師よ、永遠なれ……

――オレオレ詐欺師の奮闘記・完――

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プロフィール

問道 火偉

Author:問道 火偉
年齢:死後3年と少し。
職業:オバケには学校も仕事もない。
趣味:その辺の人に憑依して小説を書く。これが本当のゴーストライター。

一言:この世には目には見えない闇の住人たちがいる。奴らは時として牙をむき、君たちを襲ってくる。私はそんな奴らから君たちを守るために、地獄のそこからやってきた正義の死者…………などではない。
 単なるアホです。お気軽にコメントして下さい。相互リンクも絶賛受付中。

只今、百物語という企画を開催中。ホラーチックなストーリーを書いてみたい、という方はぜひ参加してみてください。

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