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鬼神伝

第33話 「プライド」

 外道丸は目の前の光景が信じられなかった。
 不本意とはいえ、神切丸にいつもの10倍以上の力を引き出され、自分の意志とは無関係にその黒い刃を黒い狐に振り下ろした。
 相手は妖狐とはいえ、体長1mにもみたない、小柄なほとんど犬のような妖怪である。二本の刀を構えた所で、そんなもので受けきれるはずがなく、刀ごと頭から真っ二つにされているはずだった。

 なのに……

 受け止めている!?小さな体で、短い刀で、全力以上の一撃を受け切っているだと!?しかも、余裕の表情で……

「いやいや、外道丸ちゃん。オイラだってあんまり余裕じゃないよ。これでも精一杯だ」
「勝手にちゃん付けしてんじゃねえ、クソ狐!!ていうか、お前心が読めるのか!?」
「エテ公にできてオイラにできない妖術があると思う?」

 エテ公とは猿の姿をした覚(サトリ)という人の心を読む妖怪のことである。外道丸はそれも信じられなかった。
 普通、妖怪は自分の使える妖術というのは、生まれた時から決まっている。別の妖怪の妖術を会得しようと思ったら、気が遠くなるほどの修行が必要だ。少なくとも、人間が一生かけても足りないぐらいの時間が必要である。
 一体この狐はどれだけの年月を生きてきたというのだ?いや、それよりも自分の一撃を刀で受け止め、静止した妖怪など初めてみた。それも当たり前のように……

「当たり前でもないよぉ~この体勢結構疲れるんだよ?さすが、女の子とはいえ夜叉族最強の人間だ」
「……!?」
「ビックリした顔を見ると自分たちの事を何一つ知らないんだね。じゃあ、オイラが教えてあげる。でも……ちょっと、姿勢変えるよ?」
「なにをす……!!」

 クロは外道丸の一撃を受けるためにクロスさせた二本の刀を、両開きのドアを開くように、思い切り振りほどき、外道丸を壁の向こうまで吹っ飛ばした。
 羅刹丸は信じられないものでも見るかのようにポカンとし、夜叉王丸はさすが師匠と言わんばかりに頷き、晴明は「家……壁……」とぶつぶつとつぶやき、クロは「ふん」と鼻息をならした。
 壁の向こうでは外道丸が仰向けで倒れ、天井を仰いでいた。そこへ肉球の足音が一歩ずつ近づいてくる。

「あのね、外道丸ちゃん。君はまだ妖怪ですらない、ただ長生きしてちょっと不思議な力をもった人間なんだよ。本物の夜叉族の鬼っていうのは、君みたいにお行儀のいい子じゃないから……オイラも君の先祖には何度殺されかけたことか分からないよ……本当にあの鬼たちは恐かった……」
「俺はまだ中途半端な存在だと言いたいのか……?」
「うん。でも、それは妖怪よりも人間よりもすごいことなんだよ。古来からね、半妖(妖怪と人間のハーフ)は純粋な妖怪よりもずっと強いんだ。だって、妖怪という超自然生物の能力を持ちながら、人間という無限に進化するスペシャルスキルを応用し、際限なく強くなり続ける。だから……鬼になんてならない方がいいよ?ていうか、夜叉族だからって鬼になる必要はないと思うよ?」
「……!!」
「ふふ……そんな顔しないでよ。言ったでしょ?オイラは心が読めるの。君が考えていることなんて、全部お見通しなんだから……」

 クロは声のトーンを一つ落として続けた。外道丸はまだ堪えていた。

「それに、君が思っているほど鬼はカッコイイ生き物じゃない。はっきり言って、畜生にも劣る下種だ。言っちゃ悪いが外道の極みだ。だから、言うんだよ。鬼畜外道って」
「俺も外道丸って名前なんだがな……」
「君のは名前だけでしょ?」

 そろそろ限界だった。いや、とっくに限界を超えていたかもしれない。それでもこんな犬みたいな生き物にムキになるのは大人気ないと心のどこかでブレーキをかけていたが、そのブレーキが外れる。
 相手が何千年生きた大妖怪だろうが知った事ではない。こんな犬みたいな生き物に力負けするのは耐えられない。中途半端な存在だ、外道丸といっても名前だけの女だ、馬鹿にされるのは許せない。夜叉の面子が許さない。

「上等だクソ犬!!」

 外道丸は飛び上がった。額に、両肘に、両膝に、両肩に、2本ずつ、計8本の角を生やして。夜叉族の戦士が本気になった姿である。
 夜叉族はこの角の数でその強さが分かる。それは産まれた時に体のどこかに生えて、成長するにつれ、鷹が爪を隠すように普段は人間と変わりない姿をする。ちなみにその数は最高で8本。外道丸は文句無しに最強クラスの妖怪である。

「てめえにこの外道丸さまの本気を見せてやるよ!!」

 言い放ち、外道丸は自分の持つ妖力を最大限に引き出し、神切丸の呪縛の無理矢理ふりほどき、それどころか今度はこの魔剣を完全に自分の支配化に置いてしまった。かつて、スサノオを殺したあの時のように。
 これにはさすがのクロもにやけた顔をひきしめてかかった。

「ならオイラも本気にださせてもらうぜ!!」

 言い放ち、クロはその姿を一変させた。黒い毛並みを金色に輝かせ、尻尾は4本に分かれた。その姿を見て外道丸は合点がいった。

「なるほど……ただの黒狐かと思ったら、てめえ……天狐か!」

 妖狐族には一種の格付けのようなものがあり、階級によってその姿が変わってくる。

 まず、最下級のものが赤狐(せきこ)という見た目も普通の狐と変わらず、妖力もあまりない、いわば新入りの下働きのようなものたちである。
 次に白狐(はくこ)といい、その名の通り全身が白い毛並みに包まれた狐で、稲荷大明神に使える神の使者である。赤狐の上にあたり、晴明の母親も白狐である。中堅の妖狐である。
 その次が黒狐(くろこ)である。これは中国の妖狐で、北斗七星の化身と言われ、王が天下泰平を成し遂げた時にだけその姿を現すと言われているもので、いわゆる天帝の使いある。稲荷大明神に仕える白狐と、その白狐の下にあたる赤狐とは違い、好戦的なものも多い。
 その上のランクが銀狐(ぎんこ)。月の形をした痣が額にある銀色の狐である。かなりの妖力を持ちつ。これはダキニ天の眷属で、好戦的どころか凶暴なものが多い。
 銀狐と同格で金狐(きんこ)というものもいる。太陽の形をした黒い毛が背中にある以外は全て金色である。銀狐どうようダキニ天の眷属だが、性格は対照的に大人しい者が多い。

 赤狐、白狐、黒狐、銀狐、金狐は生まれた時から決まっており、いくら何千年修行したところで、赤狐が白狐になったり銀狐になったりはしない。妖狐族とひとくくりにしてあるが、系統もまるで違うし(赤狐と白狐は「神道系」、黒狐は「道教系」、銀狐と金狐は「仏教系」の妖狐)別の生き物と思ってもらっていい。ただ、格は下でも実力だけなら金狐より強い赤狐が生まれる事もある。

 九尾狐(きゅうびぎつね)。その名の通り、尾が九本ある妖狐である。妖狐族は長い年月を重ねるごとに、猫又のように尻尾が2本、3本と増えていき、最高で9本にまでなる。この尾が9本になった妖狐を総称して九尾狐という。
 例えるなら、九尾の赤狐、九尾の金狐……など九尾狐自体は妖狐族の種類の一つでもなければ、固有名詞でもない。長い年月(およそ900年ぐらい)、修行を重ね膨大な妖力を持った妖狐達の事である。
 しかし、九尾狐が最強の妖狐ではない。それのさらに上に天狐(てんこ)というものがいる。およそ千年の歳月修行を重ね、九尾よりも強力な妖力、神通力を操り、さらには千里眼や千里耳まで使える妖狐である。
 その姿は光り輝く狐で、尾の数は4本と言われている。なぜ、九尾よりも長い年月を生きているのに、尾の数が少ないのかというと、妖狐族は九尾狐にまで成長すると、それからは逆に尾の数が減っていくからである。

 光り輝く体と4本の尾を見て、外道丸はクロが最強クラスの妖狐だとハッキリ分かった。

「面白え!!てめえが天狐なら相手にとって不足なし!!」
「う~ん……テンコと言われればそうなんだけど……できればクロの方で呼んで欲しいな……結構気に入っている名前だから」
「んな事どっちでもいい!!さあ、喧嘩しようぜ!!」
「血の気多い子だな……」

 やれやれ……と、言ってクロは日本の刀を構えた。先ほどとは違い、順手の右手を上に、逆手の左手を下にした奇妙な構えである。
 対して、外道丸は構えもクソもない。右手に握った漆黒の神切丸を肩に預け、左手の中指をつきたて、かかって来い、と言わんばかりにそれを手前に振った。
 この挑発にはさすがのクロも頭にきて、今までの愛らしい口調を止めた。

「ふ……上等だよ、このクソガキが」

 二匹の間に貼り詰めた空気が流れ、妖気が火花を散らし、最強クラス妖狐と、最強クラスの夜叉が再び刃を交えようとしていた。

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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:問道 火偉
年齢:死後3年と少し。
職業:オバケには学校も仕事もない。
趣味:その辺の人に憑依して小説を書く。これが本当のゴーストライター。

一言:この世には目には見えない闇の住人たちがいる。奴らは時として牙をむき、君たちを襲ってくる。私はそんな奴らから君たちを守るために、地獄のそこからやってきた正義の死者…………などではない。
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