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平成百物語



問道 火偉の喜快日記  夏ですね。暑いですね。
まだまだ暑い日が続きそうですが、エアコンを付けっぱなしにして寝て、風邪をひく……なんて事がないよう、お気をつけ下さい。
さて、久しぶりの百物語。今回は真面目に恐い話を書いてみました。



――「廃屋の幽霊」――

“ギイ……ギイ……”

 音のない暗闇の中に、あたしと弟の足音だけが木霊した。ウグイス張りの廊下というわけではないのだけれど、あたしたちがいるこの廃屋は戦前に建てられたものであちこちボロボロになっているのだ。
 懐中電灯で照らし出した居間の畳は腐りはて、土間の床もあちこちひび割れ、同じように土塗りの壁には亀裂が走って、不気味な雰囲気を演出していた。
 どうせ幽霊なんかいないんだから、と冷めたあたしは、そんな様子を興味なく観察していた。東京に帰ったら、友達にウソの怪談話でも聞かせてやろうと思い、多少はリアリティ出すため別に興味があるわけでもないのだけれど、この廃屋の様子を観測していた。

 ひょっとしたらあたしは、心のどこかで幽霊に出てきて欲しいと、そんな物を見てみたいと、思っているのかもしれない。高校生にもなって何て幼稚なんだろう。

「……?」

 自嘲気味に苦笑を浮かべていると、小学3年生の弟があたしの服を引っ張ってきた。

「お姉ちゃん……もう帰ろうよ……」
「なによ、あんたが探検したいとか言い出したんでしょ?」
「そうだけど……」

 そうなのだ。あたしたちがなぜこんな廃屋で心霊調査などいているかというと、弟のワタルの「探検したい」という一言が原因なのだ。

――1時間前

 田舎のおばあちゃんの家に遊びに来たあたしたちは、花火大会の後はもうすることもないので、布団に入って寝る事にした。けれど、なかなか寝つけないあたしは、持ってきた宿題をやる事にした。
 他にすることがないせいだろうか、それとも田舎の綺麗な空気のおかげか、思いのほか宿題ははかどった。けれど、ノートにシャーペンを走らせる音がうるさかったせいか、一緒の部屋で寝ていた弟を起こしてしまった。

「お姉ちゃん……?何してるの……?」
「ごめんね。起こしちゃった?」
「ううん……眠れなかった……」
「ふふ……それじゃ姉ちゃんと一緒だね」

 気を使いながらもあたしにもたれかかってきた弟がかわいくて、うとうととした顔を撫でながら思わず笑顔をこぼした。

「あ、そうだ」

 その時、弟の電球のスイッチが入り、何かを思いついた。それが……

「ねえ、お姉ちゃん。今から探検しにいかない?」
「探検?」
「うん。この近くに凄い薄気味悪い廃屋を見つけたんだ。婆ちゃんに聞いたら、あそこは誰も住んでないけど、近づいちゃいけないよ」って言うし、絶対出るよ!」

 ああ、なるほど。かわいい弟はいわゆる心霊スポットや怪奇現象の類を期待しているわけだ。そんな事あるはずないのに……
 そう思いながらも弟にせがまれると断れない甘い自分がいて、結局あたしは弟と一緒に、こっそり家を抜け出し、懐中電灯片手に、もう片方の手は弟の小さな手を握り、くだんの廃屋に向かったのだ。

そして今に至る――。

 分かってはいたけれど、廃屋を一回りしてもやはり幽霊なんてものは出なかった。弟も怯えていることだし、家を抜け出してきたことがばれれば大目玉だ。引き上げるとしよう。

「何もなかったし、帰ろっか?」
「……うん!」

 あたしのその一言で怯えていたワタルの顔にもいくらか余裕が戻ってきた。そして、帰ろうとしたその時、異変が起こった。

“ギイ……ギイ…………ギイ……

 あれ?足音が増えてる?いや、そんなはずはない。そんな馬鹿げた事が起きるわけないのだ。

 あたしは立ち止まり、ワタルをかばうように抱きしめてジッと動かなかった。けれど……

“ギイ………ギイ…………ギイ………………

 足音が近づいてきた。

「お姉ちゃん……恐いよ……」
「大丈夫。姉ちゃんがついてるから。ワタルは姉ちゃんが守るから」

 あたしの胸の中でワタルは震えていた。いや、あたしが震えていたのかもしれない。あたしたちはその場を動かなかった、というより動けなくなっていた。

“ギイ”

 足音がすぐ真後ろで止まった。あたしが恐る恐る後ろを振り返ると、第二次大戦時の日本軍の軍服を着た、全身血まみれの男がこう言った……

「こんばんわ……」

yuurei.png

「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 あたしはお腹の底から内臓がひっくり返るぐらいの悲鳴をあげた。それを見た男は勝ち誇ったような笑い声をあげ……

「うはは~恐がっている♪恐がってる♪うははは……うごふぉあ!!」

 てる最中に、顔面に石をぶん投げられた。

「いたーい!!もろに顔面に直撃した!!歯折れた!!」

 そして、のた打ち回った。男は石を拾うと、血の気のない青ざめた顔を少しだけ怒りで赤らめ大声で叫んだ。

「誰!?こんなの投げたの!!危ないじゃない!!」
「あたしだよ!!」
「あ、やべ……」

 声のするほうに顔を向けると、そこには怒りに体を振るわせるおばあちゃんの姿があった。それを見た男の顔は最初の時より一層血の気がひいて青ざめていた。

「なにしてんだい!!子供達が恐がってるじゃないか!!」
「いや、ちょっと待って、ちょっと待って!!この子達は肝試しに来たみたいなんだから、恐がらせるのは別に悪い事じゃないだろう!?」
「限度ってものがあるんだよ!!このバカたれ!!」
「うぇえ!?」

 言い争う……というより、お婆ちゃんが一方的に男の幽霊を罵倒するのを静止して、このわけの分からない状況を説明してもらう事にした。

「お婆ちゃん……この男の人の…………幽霊とお知り会い?」
「知り合いも何もこいつは……」

 なんと、驚くべき事にあたし達のおじいちゃんに当たる人だった。あたしはおじいちゃんが着ている血まみれの軍服が気になって尋ねた。

「おじいちゃんは戦争で死んじゃったの……?」
「う~ん……ちょっと、違うんだな……おじいちゃんが死んじゃったのは戦後なんだ……」
「どういうこと?」
「詳しくは居間で話そうか。みんなおいで」

 そう言って、おじいちゃんはみんなをあのボロボロの居間に通して、囲炉裏に火をつけた。あたしたち4人はそれを囲むように腰を下ろして、おじいちゃんが話すのを待った。炎に照らされたおじいちゃんの顔は、さっきのおばけみたいな物ではなく、普通の好青年だった。


 おじいちゃんは戦争中、何度も死ぬかもしれないような危ない目にあったのに、戦後日本に帰国しても温かく迎えられることはなかった。そういう、風潮だったから……
 お国のために死ぬのが格好いい……というか、それが当たり前の事で、生きて帰ってくるのは戦場で逃げ回った腰抜けだから、というねじれた思想がウィルスのように蔓延していたのだ。

 日本に生きて帰って来たおじいちゃんにも、賞賛の拍手が送られることはなかった。それがテレビドラマや映画だったら、近所の人たちが「良く頑張った!良く生きて帰って来た!」と褒めたたえてくれただろうに、現実はそううまくいかなかった。
 おじいちゃんに送られたのはひどい罵声や暴言と嫌がらせの数々だった。それでもおじいちゃんは「銃弾の雨を浴びせられるよりはマシだよ」と笑っていた。そんなのは平気だったのだ。けれど、その矛先がお婆ちゃんに向くのだけは耐えられなかった。
 非国民の嫁。と後ろ指を指され、毎日のように泣いていたお婆ちゃんを見かねて、おじいちゃんはある日、包丁を片手に「大日本帝国万歳」と叫び、往来のど真ん中で自分の腹を何度も何度もつき刺した。
 そして、近所の人が見守る中「私は国のために戦った。その私を支えてくれた妻を、どうか責めないで下さい!彼女は何も悪くありません!!」と言い残し、息を引き取ったのだという。


 それから、お婆ちゃんが寂しがらないように、毎年お盆になると、この廃屋に現れて、二人だけの秘密のデートを楽しんでいたのだという。だから、お婆ちゃんはワタルにここに来ちゃいけないって言ったんだ。

「おばあちゃんは当時から美人だったからすぐに再婚しちゃうと思っていたんだけね……」

 おじいちゃんがそうこぼすと、

「悪かったね。性格がひねくれているからモテなかったのさ」

 お婆ちゃんが苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。おじいちゃんは「ははは」と笑い、あたしもワタルもつられて笑顔をこぼした。二人のやりとりは漫才のようで面白かった。
 ただ、お婆ちゃんだけは笑わなかった。いや、笑えなかったのだろう。涙と一緒に悲しい声でこうつぶやいた。

「せっかく生きて帰って来たってのに……あたしなんかのために死んじゃって……あんたバカだよ……」
「ごめんよ……でもね、仕方なかったんだ。君が死ぬほど好きだから」
「バカ、そんな冗談笑えないんだよ……」
「冗談じゃないよ」
「……なおさら笑えないよ」

 けれど、そう言ったお婆ちゃんの顔は少し笑顔だった。それからしばらく、あたしたちは談笑をし、夜明け前になるとおじいちゃんは「もう、帰らなきゃ……じゃ、また来年会おう」と言って、煙のように消えてしまった。

 おじいちゃん……と言うより、優しいおじさんみたいなあの人の言葉をあたしは忘れない。いつか、あたしも誰かにあんな風に思われたいな……「君が死ぬほど好きだから」って……でも、本当に死なれちゃうの、ちょっと嫌だけどね。

――おしまい――

 と、みせかけてオマケ。というかちょっとした作成秘話を……あの気味の悪いイラストあるじゃないですか?あれ描きあげた後、パソコンがフリーズしました(マジで)幽霊ネタはやめておいたほうがいいのかも知れませんね。とりあえず、ホラー系のイラストはもう描きません。

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テーマ : 物書きのひとりごと
ジャンル : 小説・文学

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No title

今回は雰囲気的にホラーだなと確信を持ち始めてたら
まさかの裏切りですねw 笑
ギャグありで最後はほのぼの的な感じで終わりましたね^^
今回の話しもすごくよかったですよ♪
ところでオマケに書いてある気味の悪いイラストとやらは
なぜか写ってないんですけど、これって私のPCだけでしょうか?

Re: No title

あのイラストはね……

・PCが誤作動を起こす
・フリーズする
・スピーカーから変なノイズが聞こえてくる(ネットを遮断しても)
・なんか体がだるい……
・働きたくない
・働いたら負けって気がする
・最近、恐い夢ばかり見る……
・呪われたかもしれない
・もう嫌だ
・もういやあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

↑全部本当

という、理由から削除しました。

でも、イラストないと、いまいち迫力に欠けるので一両日中に描きます。

No title

ん?なんか関係ないのも入ってるような・・・(それは言っちゃダメだよ

イラスト見ましたよー。本当に気味が悪いですね☆ ←

Re: カノンさん

関係ないものなんてありませんよ♪
全部、心霊現象です。全て、霊の仕業です。
決して私がグータラなだけではありませんから。

あのイラストはかなり質を落としたと言うか、ポップにしたというか、かわいらしくしたものです。
前のは肌の色とかしたたる血とか、かなり恐いものがありました。

感動

ちょっとぉ~。感動しちゃったじゃニャイか~~。
こういうの書いたら、上手すぎですよ、問道さん。
私はこの話、大好きです。
こんなに想われたおばあちゃん、思い出胸に抱いて、幸せ。
でも、やはり、一緒に生きていて欲しかったね……。
だって、二人で乗り越えられないものはない。(だと思いたい)

えーん。泣けちゃいますぅ~。
素敵なお話、ありがと。
さてと、アイス食べて気を取り直すニャ~(笑)

Re: えめるさん

感動して頂き、ありがとうございます。
この話しの爺さんのモデルは、実はうちのジジイなんです。

うちの爺さんも親戚にボロッカスに言われて家を飛び出してしまったんですよ。
でも、まあ腹を切るよりマシですね……
そのおかげで親父が産まれ、私がいるのだから。
ジジイのナイス家出に乾杯。

えめるさんの言う通り、二人で乗り越えられないモノはないと思います。
その証拠に、婆さんに先立たれてから急にボケが始まりましたから。
大黒柱もそれを支える縁の下がなければ簡単に倒れてしまうのですね……

まあ、爺さんに聞いても「うん」とは言わないでしょうが、
たぶん二人はラブラブだったと思います。

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プロフィール

問道 火偉

Author:問道 火偉
年齢:死後3年と少し。
職業:オバケには学校も仕事もない。
趣味:その辺の人に憑依して小説を書く。これが本当のゴーストライター。

一言:この世には目には見えない闇の住人たちがいる。奴らは時として牙をむき、君たちを襲ってくる。私はそんな奴らから君たちを守るために、地獄のそこからやってきた正義の死者…………などではない。
 単なるアホです。お気軽にコメントして下さい。相互リンクも絶賛受付中。

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